志免町子どもの権利条例と逐条解説
(前文)
子どもは、一人の人間であり、かけがえのない大切な存在です。子どもには、人間として生きていくための当然の権利があります。子どもは、その権利が保障され、健やかに成長していくことができます。
子どもは、自分の意見を自由に言うことができ、大人は子どもの意見を尊重します。
子どもは、安心して助けてと言うことができ、大人は子どもを守ります。
子どもは、自分の権利について学び、気づき、身につけていくなかで、他の人の権利を大切にし、お互いに権利を尊重し合うことができます。
子どもは、大人と共に志免町をつくっていく仲間です。子どもが幸せな町は大人にとっても幸せな町です。子どもは、社会の一員として重んじられ、それぞれの役割を果たしていけるように支援されます。
子どもは、平和と豊かな環境のなかで、健やかに成長していくことができます。子どもは、世界中の子どもたちのことについて考え、自分たちのできることをしていけるように支援されます。
私たちは、このような町づくりをめざして、児童の権利に関する条約(平成6年条約第2号通称子どもの権利条約)の理念に基づき、志免町が子どもの権利を尊重する町であることを明らかにし、この条例を制定します。
- 【解説】
前文では、はじめに、子どもは一人の人間であり、権利の主体であること、その権利が保障されることを記しています。
次に、意見表明や参加する権利について触れていますが、ここでいう「意見を自由に言う」ということは、わがまま勝手なことを指しているのではありません。自分の考えに基づいた発言を、怯えることなく、諦めて無関心になることなく述べることを指しており、「意見を尊重」することは、それら子どもの意見を軽視したり、無視したりするのではなく、どうしてそのような意見をもつようになったのか、それに至るまでの考え方や状況などを思いやり、真摯に耳を傾けることを指しています。続く安心して生きる権利については、子どもが権利の主体であると同時に、大人とは異なる、保護や支援を必要とする存在であることを示しています。
次に、子どもの権利を尊重することで、互いの存在や意見などを大事なものと認めることにつながり、子どもと大人の関係、子ども同士の関係、ひいては人間同士の関係が、他人を思いやり、よりよいものになることに触れています。
次に、子どもを、志免町や社会をつくっていく一員であると認め、様々な場面でその力を発揮し、いきいきと過ごしていけるよう励まし、支援しながら、大人も子どもも幸せに暮らせる町づくりを目指すことについて明記しています。
次に、子どもが平和で豊かな環境においてのびのび育っていくこと、世界中を見つめる広い視野をもって自分たちができることを考え、実行していけるよう大人が支えていくことを示しています。「豊かな環境」とは、単に物質的な豊かさだけではなく、精神的な豊かさを含めて、家庭環境、学習環境、自然環境など、幅広い意味合いをもちます。
最後に、これらをすべて踏まえたうえで、志免町が条例を制定することを宣言しています。
第1章 総則
(目的)
第1条 この条例は、町民に幅広く子どもの権利を普及させ、子どもの権利を守り、成長を支援するしくみなどについて定めることにより、子どもの最善の利益を第一に考えながら、子どもの権利の保障を図ることを目的とします。
- 【解説】
子どもの権利の保障を目的とするこの条例にとって、その目的達成のために町や町民がとるべき基本的な姿勢を表明しています。大人一人ひとりが、子どもの権利について正しく理解することが重要であり、また、大人の考えを子どもに押し付けるのではなく、子どもにとって何が有益なのかを考えていくという立場を、この条例では一貫してとっています。
(定義)
第2条 この条例において「子ども」とは、18歳未満の人をいいます。
2 この条例において「子ども施設」とは、児童福祉法(昭和22年法律第164号)に規定する児童福祉施設、学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する学校、その他の子どもが利用する施設をいいます。
- 【解説】
この条例の対象となる「子ども」の定義にはさまざまな意見があり、どれが正しいとは一概にはいえませんが、児童福祉法では18歳未満の人を「児童」といいますし、子どもの権利条約における「子ども」の定義も18歳未満となっていることから、ここでは18歳未満の人を「子ども」とします。
第2項の「子ども施設」は、設置者の公私を問いません。「児童福祉法に規定する児童福祉施設」については、保育所などがあります。「学校教育法に規定する学校」については、小学校、中学校及び幼稚園などがあり、また、「その他の子どもが利用する施設」と
は、いわゆる認可外保育施設、放課後児童クラブ(学童保育所)などを指します。
(責務)
第3条 町は、子どもの権利を尊重し、あらゆる施策を通じてその権利の保障に努めます。
2 親などの保護者(以下「親」といいます。)は、その養育する子どもの権利の保障に努める第一義的な責任者であることを認識し、その養育する子どもの権利の保障に努めます。
3 子ども施設の設置者、管理者、職員(以下「子ども施設関係者」といいます。)は、子ども施設において子どもの権利の保障に努めます。
4 町民は、子どもにかかわる場や機会において、子どもの権利の保障に努めます。
5 町、親、子ども施設関係者、町民は、お互いに連携して子どもの権利の保障に努めます。
6 町は、国、他の地方公共団体などと協力し、町の内外において子どもの権利が保障されるよう努めます。
7 町、親、子ども施設関係者、町民は、子どもが一人の人間として自分らしく健やかに成長していくことができるよう支援します。
- 【解説】
子どもの権利を守るためには、子どもにかかわるすべての人々がそれぞれの立場において努力するとともに、同じ目的のもとにお互いが協力することが何よりも大切です。この条文では、子どもの権利保障を進めるにあたり、町、親などの保護者、子ども施設にかかわる人々、その他すべての町民にそれぞれ責務があることを述べ、その具体的な保障方法については後述します。
(子どもの権利の普及)
第4条 町は、子どもの権利に対する町民の理解を深めるため、さまざまな方法を通じてその普及に努めます。
2 町は、家庭、子ども施設、地域において、子どもの権利について教育や学習が行われるよう支援します。
3 町は、子ども自身による子どもの権利についての自主的な学習を支援します。
- 【解説】
第1条でも述べたとおり、子どもの権利を守るためには、まず町民に幅広く子どもの権利を普及させる必要があります。すべての町民が、子どもの権利を侵害するような行為や事柄を他人事と考えることのないように、子どもの権利についての意識の高揚を目指します。
具体的には、子どもの権利に関するチラシ、ポスターなどの作成、配布や、学習会などの開催が考えられます。
(子どもの権利の日)
第5条 子どもの権利についての関心や理解を深めるために、「しめまち子どもの権利の日」を設けます。
2 「しめまち子どもの権利の日」は、11月20日とします。
3 町は、「しめまち子どもの権利の日」の趣旨にふさわしい事業を行います。
- 【解説】
第4条で述べた権利の普及をより一層推進するため、「しめまち子どもの権利の日」を設け、広く町民に子どもの権利についての啓蒙啓発を図ります。なお、11月20日に設定した経緯については、国連総会で子どもの権利条約が採択された日であることや、毎年
11月が児童虐待防止推進月間であることなどによります。
第3項に掲げる事業について、具体的には子どもの権利に関する講演会や、子ども自らの力で企画実施するイベントなどの開催を想定しています。
しかし、この日に事業を行うことのみで権利普及につながるとは考えられません。条例を制定するだけで終わるのではなく、この条例が生きたものとなり、子どもの権利を守っていくためには、やはり常日頃からの啓蒙啓発活動が重要であることを忘れてはいけません。
第2章 人間として大切な子どもの権利
(子どもの大切な権利)
第6条 この章に規定する権利は、子どもにとって、自分らしく育ち、学び、成長にふさわしい生活をしていく上でとりわけ大切なものとして保障されます。
- 【解説】
この第6条は、第2章全体の説明を章の導入部で行う役割を担っており、第7条から第10条に掲げる権利が子どもにとって大切な権利であるということを章の冒頭に表明しています。なお、この章で掲げる権利は、子どもに限られたものばかりではありませんが、子どもの権利を無視した様々な事件が社会問題化している現在、あえてこの条例で謳うことの意義は大きなものであると考えられます。
(安心して生きる権利)
第7条 子どもは、安心して生きることができます。そのために、主として次に掲げる権利が保障されます。
(1) 命が守られ、尊重されること。
(2) 暴力を受けず、又は放置されないこと。
(3) 差別を受けないこと。
(4) 愛情と理解をもってはぐくまれること。
(5) 健康に配慮され、適切な医療が提供されること。
(6) 平和と安全な環境下で生活ができること。
- 【解説】
子どもは、子どもであると同時に一人の人間です。第7条では、子どもということにかかわらず人間として大切にされなければならない権利に、とりわけ子どもだからこそ大事にしたい権利として第2号、第4号を加えて規定しています。第2号の暴力とは、殴る・蹴るなどの身体的暴力、無視される・存在を否定するような言葉を浴びせられるなどの精神的暴力、性的暴力を指します。また、放置とは、充分な食事を与えられなかったり、不潔な状態を続けさせられたりなど、世話をされずにいることを指します。第4号は、心と体の成長過程である子ども時期を通して人間が形成されていくことを考えれば子ども特有の、必要不可欠な内容であると考えられます。
(自分らしく生きる権利)
第8条 子どもは、人格が尊重され、自分らしく生きることができます。そのために、主として次に掲げる権利が保障されます。
(1) 個性や他の者との違いが認められ、人格が尊重されること。
(2) 自分の考えをもつこと。
(3) 自分にとってふさわしいやり方で学ぶこと。
(4) プライバシーが侵されないこと。
(5) 自分に関する情報が不当に収集され、又は利用されないこと。
(6) 子どもであることにより、不当な取扱いを受けないこと。
(7) 安心できる場所で自分を休ませ、余暇を持つこと。
- 【解説】
第8条では、人間としての権利に、学ぶこと、子どもであるからといって不当な取扱いを受けないことといった権利を含めて規定しています。人間は生涯にわたって学び続けます。第3号でいう「学び」とは、学校教育だけをさすものではなく、文化やスポーツまで幅広く含むものです。いつ、何を、どのように学ぶかは一人ひとりの個性や能力に応じて、多様なものと考えられます。また、「ふさわしいやり方」とは、具体的な勉強の方法ではなく、このような学びのあり方を意味しています。第6号については、平成16年9月に志免町で行った「子どもの権利に関する意識調査結果」での小学生・中学生からの回答に「『子どもだから』と差別する」という内容が多くみられたことからも、規定すべき内容と考えられます。大人は子どもに対し、年齢に応じたかかわりをして助言や支援などを行いますが、子どもを、大人より劣った、低い存在としてみることなく、尊重し、一人の人間として扱わなければなりません。
(意見表明や参加する権利)
第9条 子どもは、自ら社会に参加することができます。そのために、主として次に掲げる権利が保障されます。
(1) 自己表現や意見の表明ができ、それが尊重されること。
(2) 仲間をつくり、仲間と集うこと。
(3) 社会に参画し、意見を生かされる機会があること。
(4) 社会参加に際し、必要な支援が受けられること。
- 【解説】
人は、人や社会とかかわりなくして生きることはできません。意見を表明し、それが尊重され、社会に積極的に参加し、人と出会い、かかわり、支援される経験を成長期にもつことで、大人になった時により豊かで、思いやりのある人間になれると考えます。第9条では、人や社会とかかわりながら生きる権利として、4号にわたって規定しています。第1号では子どもの自己表現や意見表明について、またそれが尊重されることを規定していますが、子どもの言うことをすべて許し、聞き入れ、従うことと、尊重することは異なります。第3号では、子どもがより主体性をもって社会にかかわることを考え、「参加」ではなく「参画」という言葉を用い、意見を生かされる機会がある、としていますが、これに関しても同様で、子どものすべての意見を無条件に聞き入れることを指しているのではありません。かといって形だけ聞くふりをして、意見を聞き流すことでもありません。子どもの意見に真摯に耳を傾けることが重要です。そして充分に話し合った結果、子どもにとって最善の利益が子どもの意見と異なった場合、大人は子どもにわかるように理由を説明する必要があります。
(支援を受ける権利)
第10条 子どもは、その置かれた状況に応じ、必要な保護や支援を受けることができます。
- 【解説】
子どもは大人と異なり、さまざまな面で行動に制限があります。第10条では、社会的、経済的だけでなく、身体的、精神的な内容も含め、子どもが置かれた状況に応じて、子どもが一人の人間として生き、成長していくにあたっての必要な保護や支援を受けることを規定しています。
第3章 家庭、子ども施設、地域における権利の保障
(家庭における権利の保障)
第11条 親は、子どもの権利の保障において家庭が果たす役割を認識し、子どもの権利を保障します。
2 町は、親が、安心して子育てができ、その責任を果たせるよう支援します。
3 親は、虐待や体罰などの子どもの権利を侵害することをしてはいけません。
4 町は、権利を侵害された子どもの速やかな発見、適切な救済、回復、予防のために関係機関や関係者と連携を図ります。
- 【解説】
ここでは、家庭における子どもの権利保障について、親および町それぞれの役割を述べています。
第3条第2項で触れたとおり、親などの保護者はその養育する子どもの権利保障に努める第一義的責任者であるとされています。これは、子どもの権利条約第18条において、「親または場合によって法定保護者は、子どもの養育および発達に対する第一義的責任を有する。子どもの最善の利益が、親または法定保護者の基本的関心になる」と定義されていることによりますが、近年、児童虐待などの痛ましい事件が続発していることから、親が責任を十分に果たせていないことが表面化している現状があります。これらを踏まえた
上で、町は積極的に親の養育責任を援助しなければなりませんし、権利侵害が起きてしまった時には、その子どもの救済が必要です。町の果たす責務に基づく具体的な施策については、第5章において掲げています。
(子ども施設における権利の保障)
第12条 子ども施設関係者は、子どもの権利が保障されるなかで、子どもが主体的に育ち、学ぶことができるよう支援します。
2 子ども施設の設置者や管理者は、その職員に対し子どもの権利を保障できるよう支援します。
3 子ども施設関係者は、虐待、体罰などの子どもの権利を侵害することをしません。
4 子ども施設関係者は、いじめなどをなくすよう努めます。
5 子ども施設関係者は、虐待、体罰、いじめなどについての相談、救済、防止などのために関係機関や関係者と連携を図ります。
6 子ども施設関係者は、関係機関や関係者と連携を図りながら、不登校などについて必要な支援をします。
7 子ども施設関係者は、育ちや学びに関する情報の開示に努めるとともに、説明責任を果たします。
- 【解説】
ここでは、子ども施設における子どもの権利保障について、子ども施設関係者が担うべき役割を述べています。
子どもにとって、学校や幼稚園・保育園などの子ども施設で過ごす時間は、家庭に次いで長いものであり、子ども施設関係者は子どもの権利保障に際し重要な役割を果たすべきであると考えられます。ここでは、直接子どもと接する職員以外にも、その職員が子ども
の権利保障を円滑に遂行できるような環境づくりを施設設置者などに求めています。
また、虐待・体罰・いじめ・不登校などが社会問題化し、その解決は緊急の課題となっています。子ども施設にもそれらの問題解決が求められていますが、その要因は複雑で施設内部だけでは解決できないケースが多く、関係機関や関係者との連携は不可欠です。
(地域における権利の保障)
第13条 町民は、地域において、子どもの権利が保障され、子どもが健やかに成長していくことができるよう努めます。
2 町は、子どもの成長にかかわる町民の活動を支援し、連携を図ります。
3 町民は、地域において、子どもが安心して休み、遊び、学び、人間関係を作り合うことなどができるような居場所を確保、充実し、これらの活動を支援するよう努めます。
- 【解説】
第11条で述べた「家庭」及び第12条で述べた「子ども施設」の2つを包み込む存在である「地域」において、町民および町が子どもの権利保障に対して担うべき役割を述べています。
子どもにとって「地域」は、その成長とともに変化していくものです。例えば、小学生の子どもにとっては校区がおもな地域と考えられますし、高校に入学するとその範囲は町外にまで広がっていきます。また、地域が広がっていくことで、自ずと人間関係も広がりをみせていきます。町民は、これらのことを踏まえた上で、子どもが健やかに成長できるような環境づくりに努める必要がありますし、町はその町民を支援しなければなりません。
平成16年に実施した「子どもの権利に関する意識調査結果」において、中学生の多くが、自らの意思で自由に集まり、語り、遊ぶことができる場所を求めていることがわかりました。このことを踏まえ、第3項で掲げるのが「居場所」です。安心して休み、活動できる場を、「家庭」や「子ども施設」では補えず、それらとは異なった「居場所」として求めている子どもたちがいるのです。中学生以外の子どもたちも、同じように居場所を求めていることが考えられますので、子どもたちの成長に応じて、町民は適切な居場所を提供していく必要があります。
第4章 子どもにやさしい町づくりの推進
(意見表明や参加の促進)
第14条 町、親、子ども施設関係者及び町民は、子どもが家庭、子ども施設及び地域において、意見を表明し、参加することを尊重し、支援します。
2 町は、子どもが町づくり、町政などに意見を表明し、参加できるような場や機会を提供するよう努め、提出された意見などを尊重します。
3 子ども施設関係者は、子どもの意見表明や参加を進めるために、子どもの自主的で主体的な活動を奨励し、支援します。子ども施設の設置者や管理者は、子どもの意見表明や参加を進めるために、子ども、親、職員その他の関係者が参加し意見を述べ合う場や機会の提供をします。
- 【解説】
第9条において、子どもの意見表明や参加する権利について述べましたが、本条ではその権利を保障するにあたって、子どもにかかわる人々が行っていくべきことを掲げています。
第2項では子どもが意見を表明し、参加することができる場や機会を提供することについて触れています。私たちが住む志免町は、大人だけのものではなく、多くの子どもが住んでいます。そのため、町づくりを考えるときには、大人の意見だけではなく子どもの意見も反映させるほうが、より多面的でよい町づくりに繋がると考えられます。大人には選挙権があり、選挙で選ばれた人によって町づくりが議論されますが、そこに子どもの意見が直接は反映されません。子どもが参加する場や機会を提供することにより、子どもは自らの意見や、思い描く未来を表明することができます。その際大切なのは、参加の場や機会を単なる一過性のイベントで終わらせるのではなく、そこで出された意見が尊重されていく仕組みを作り、自らの意見が尊重されているのだと子どもが実感していくことだと認識しなければなりません。
(子どもの居場所)
第15条 子どもには、ありのままの自分でいること、休息して自分を取り戻すこと、自由に遊び活動すること、安心して人間関係をつくり合うことができる居場所が必要です。町は、居場所についての考え方の普及、居場所の確保と充実に努めます。
2 町は、居場所の提供などの自主的な活動を行う町民及び関係団体との連携を図り、その支援に努めます。
- 【解説】
第13条の「地域における子どもの権利の保障」において、町民が子どもの居場所を確保、充実し、支援していく必要性について触れました。ここではさらに、子どもの居場所に対する町の姿勢について言及しています。ここでの「ありのままの自分でいること」とは、自分勝手な行動を擁護する意味合いではなく、子どもが大人から既存の子ども像の型にはめられて判断され、扱われることなく、自分が自分としていられることを指します。
この施策は、あくまで子どもの自主性を第一に考えて実施することが大切であり、行政からの「押し付け」により行うべきではありません。町の役割は、居場所にかかわる子ども及び自主的に居場所活動を行う町民などを支援することだと考えます。
(施策の推進)
第16条 町は、この条例に定める子どもの権利に関する施策を総合的かつ計画的に実施するために行動計画を作成し、推進します。
2 町は、前項の行動計画の進捗状況を第24条に定める子どもの権利委員会に報告します。
- 【解説】
町は、第2章から第5章までに述べられた子どもの権利について、その普及や保障が充分なされるための取り組みや、支援する内容を盛り込んだ施策を行動計画として作成します。これらの計画は、いずれかの権利が見落とされることがないように、すぐに取り組めるものや、数年かけて取り組むものなど、効果的に進められるよう考慮して計画されるものです。
第5章 子どもの権利救済
(権利侵害に関する相談及び救済)
第17条 町は、子どもの権利の侵害に関する相談・救済機関を設置します。
2 子ども、親、子ども施設関係者及び町民は、相談・救済機関に対して、子どもの権利の侵害について相談し、権利の侵害からの救済を求めることができます。
- 【解説】
第1項では、子どもや親などの当事者を含むすべての町民が、子どもの権利侵害について真剣に考え、彼らがいつでも相談でき、内容によっては彼らを救済すべく動くことのできる相談・救済機関を置くことに言及しています。
第2章で掲げるように、子どもは実に様々な権利を有しており、その権利を侵害されたとき、または侵害されそうになったときには、相談や救済を求めることができますが、子どもは「権利の侵害」という概念を理解できない場合が多く、自分の悩み・苦しみが権利の侵害にあたるのかわからず、悩み続けるケースが多くみられます。第2項では、権利侵害からの救済を求めることができる者として、子ども以外に「親、子ども施設関係者及び町民」と規定していますが、これは子ども自身による権利侵害の判定が困難な場合を想定しています。
(子どもの権利救済委員)
第18条 子どもの権利侵害に対して、その子どもの速やかで適切な救済を図り、回復を支援するために、志免町子どもの権利救済委員(以下「救済委員」といいます。)を設けます。
2 救済委員は、3人とします。
3 救済委員は、子どもの権利に理解や豊かな経験がある人のうちから、町長が議会の同意を得て選任します。
4 救済委員の任期は、3年とします。ただし、再任を妨げるものではありません。
5 救済委員の活動を補助するため、子どもの権利相談員を置きます。
6 町長は、救済委員が心身の故障のため職務を行うことができないと認める場合、職務上の義務違反その他救済委員としてふさわしくない行いがあると認める場合は、議会の同意を得て、解任することができます。
- 【解説】
ここでは、第17条で挙げた相談・救済機関として設置する子どもの権利救済委員について述べています。救済委員は、子どもの救済や回復に向けてより柔軟・迅速に対応できるよう独任制とし、具体的には法曹関係者、教育関係者、児童福祉関係者などが望まれます。また、その職責から「議会の同意」を得ることとしています。第5項では救済委員を補助するスタッフとしての権利相談員について述べています。相談員は救済委員へ繋ぐ直接の窓口となり、その資質は救済委員と同様に高いものが求められます。
(救済委員の職務)
第19条 救済委員は、次のことをします。
(1) 子どもの権利侵害について相談に応じ、その子どもの救済や回復のために、助言や支援をすること。
(2) 子どもの権利侵害にかかわる救済の申立てを受けて、また、必要があるときには自らの判断で、その子どもの救済や回復に向けて調査、調整、勧告、是正要請をすること。
(3) 前号の勧告、是正要請を受けてとられた措置の報告を求めること。
2 救済委員は、必要に応じ、前項第2号の勧告、是正要請、同項第3号の措置の報告を公表することができます。
3 前2項の職務のうち、勧告、是正要請及び報告の公表をするにあたっては、救済委員は合議をしなければなりません。
4 救済委員は、職務上知ることができた秘密を漏らしてはいけません。その職を退いた後も同様とします。
- 【解説】
第19条では、救済委員の職務を規定しています。相談を受け、救済や回復のために助言や支援をし、必要に応じて調査、調整、勧告、是正を行うという一連の救済に向けての動きを、いくつかの機関や部署でたらい回しにすることなく、ひとつの機関で引き受ける
ことは、子どもに大きな安心感を与えることになります。勧告は町の行政機関や職員に対して行うもので、是正要請は教育委員会などの町当局以外の機関や個人に対して行うものです。個人に向けてされるばかりでなく、機関に対して、子どもの権利侵害の救済に必要な制度の改善等の提言をすることも含めます。救済委員は、勧告や是正要請の権限をもちますが、一方的に勧告や是正要請をして、権利侵害をした相手と子どもとを対立させてしまっては、子どもにとって最善の方法とはいえなくなります。救済委員の実際の仕事は人間関係を調整することであり、権利侵害をした側とされた側がどのような形で関係を回復していくのが最もよいかを考え、話し合い、回復に向けた取り組みを進めていきます。
(勧告などの尊重)
第20条 前条第1項第2号の勧告、是正要請を受けたものは、これを尊重し、必要な措置をとるよう努めます。
- 【解説】
救済委員から勧告や是正要請を受けたものは、真摯に受け止め、必要な措置をとるよう努めなければなりません。
(救済や回復のための連携)
第21条 救済委員は、子どもの権利侵害について、子どもの救済や回復のために関係機関や関係者と連携を図ります。
- 【解説】
子どもの権利侵害を救済し、関係を回復させ、子ども自身が問題を解決していく力を支援するためには関係機関や関係者との連携が必要不可欠です。救済委員はこれら関係機関や関係者と連携し、協力して子どもを救済します。
(救済委員に対する支援や協力)
第22条 町は、救済委員の独立性を尊重し、その活動を支援します。
2 親、子ども施設関係者、町民は、救済委員の活動に対して協力します。
- 【解説】
救済委員は子どもが安心して相談し、救済を求めることができるよう、町や子ども施設、地域の団体などのどれにも属さない、独立した第三者機関であり、町はその独立性を尊重します。町や親、子ども施設関係者、町民は、権利侵害をされた子どもが救済され、その
状況が回復するよう救済委員に協力します。
(報告)
第23条 救済委員は、毎年その活動状況などを町長や議会に報告するとともに、広く町民にも公表します。
- 【解説】
救済委員が町長や議会、広く町民に活動状況を報告することで、救済委員の活動状況が把握できるだけでなく、ひいては子どもの直面する問題やその現状に対して共通認識をもてることに?がりますが、プライバシーを侵害することのないよう充分に注意する必要があります。
第6章 検証
(子どもの権利委員会)
第24条 この条例に基づく施策の実施の状況を検証し、子どもの権利を保障するために、志免町子どもの権利委員会(以下「権利委員会」といいます。)を設けます。
2 権利委員会は、10人以内の委員で組織します。
3 委員は、人権、福祉、教育などの子どもの権利にかかわる分野において識見を有する者や町民のうちから町長が委嘱します。
4 委員の任期は3年とし、補欠の委員の任期は前任者の残任期間とします。ただし、再任を妨げるものではありません。
- 【解説】
第5条の解説でも述べましたが、条例を制定されたことのみで子どもの権利が保障されることはありません。大切なのは、条例に基づいて取り組まれる施策が、真に子どもの権利を保障することにつながっていくのかということです。
この権利委員会は、第三者的な立場から、子どもの権利保障状況を調査・審議し、町に報告・提言を行っていきます。この条例を生きたものにするためには、極めて重要な組織であるといえます。
(権利委員会の職務)
第25条 権利委員会は、町長の諮問を受けて、また、必要があるときは自らの判断で、子どもの権利の状況、子どもに関する施策における子どもの権利保障の状況などについて調査や審議をします。
2 権利委員会は、前項の審議にあたっては、町民から意見を求めることができます。
- 【解説】
前条を受けて、権利委員会が行う具体的な職務を掲げています。
町は、第16条と第17条に定める施策の状況を権利委員会に報告します。これを受けて、権利委員会では、権利の保障状況について審議を行います。また、権利侵害などが認められるなどにより必要がある時には、町からの報告を受けずに調査・審議することもで
きます。その際、アンケートなどの方法で町民に意見を求めることも一つの手段として考慮しています。
(提言とその尊重)
第26条 権利委員会は、調査や審議の結果を町に報告し、提言します。
2 町は、権利委員会からの提言を尊重し、必要な措置をとります。
- 【解説】
前条で掲げた調査・審議の結果について、権利委員会は報告書として取りまとめの上、町に報告・提言します。町がこの提言を最大限尊重し必要な措置を講じることにより、この条例はさらに生きたものとなり、子どもの権利保障に関する施策は充実していくことになります。
第7章 雑則
(委任)
第27条 この条例の施行に必要なことがらは、町長その他の執行機関が定めます。
- 【解説】
「この条例の施行に必要なことがら」とは、条例に基づいて施策を行うにあたって必要であるが、条例には揚げられていない細かな事項などを指します。また、「その他の執行機関」としては、教育委員会が主なものとして考えられます。
附則
この条例は、平成19年4月1日から施行します。
- 【解説】
附則では、この条例が実際に効力を有することとなる日を定めています。
条例に基づく施策
- 子どもの権利救済委員
- 子どもの権利委員会
- 子どもの権利相談室(スキッズ)
- 子ども(中学生から18歳まで)の居場所(リリーフ)
- 子どもの権利の日イベント(子どもの権利フェスタ)
志免町子どもの権利条例(PDF版)
志免町子どもの権利条例と逐条解説のPDFファイルをダウンロードできます。
第1章 |
総則(第1条から第5条)
目的 定義 責務 子どもの権利の普及 子どもの権利の日 |
第2章 |
人間としての大切な子どもの権利(第6条から第10条)
子どもの大切な権利 安心して生きる権利 自分らしく生きる権利
意見表明や参加する権利 支援を受ける権利 |
第3章 |
家庭、子ども施設、地域における権利の保障(第11条から第13条)
家庭における権利の保障 子ども施設における権利の保障 地域における権利の保障 |
第4章 |
子どもにやさしい町づくりの推進(第14条から第16条)
意見表明や参加の促進 子どもの居場所 施策の推進 |
第5章 |
子どもの権利救済(第17条から第23条)
権利侵害に関する相談及び救済 子どもの権利救済委員 救済委員の職務 |
第6章 |
検証(第24条から第26条)
子どもの権利委員会 権利委員会の職務 提言と尊重 |
第7章 |
雑則(第27条)
委任 |
解説付き条例文は、図書館・シーメイト情報コーナー・子育て支援課に設置しております。
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