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やまんばのおはなし

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年12月26日更新 <外部リンク>

 ある所に十三歳になる姉さんと七歳になる弟と一歳の乳飲み子とお母さんの四人暮しの貧しい一軒家があったげな。ある日、お母さんは山を越えて庄屋さん方の麦こぎの加勢に行きなった。今日が最後の日で遅くまで働き、帰りに重箱におはぎをつめてもらって帰りよったら、お月様は十五夜で明るく昼のように輝いていたげな。山の中程まで来よると、「こら待て」とやまんばが出て、「そのおはぎをおれにやれ」とどなったげな。恐ろしいもんだからお母さんは一つ、ぽんと投げて走りだした。やまんばは、たちまち食って追いつき「も一つやれ」とどなったげな。また一つ投げ、一生懸命走るばってん、やまんばの足は早く、すぐ追いつき、とうとうおはぎはのうなってしもうた。「やらんとお前ば食うぞ」と言うて、とうとうお母さんば食ってしもうたげな。

 やまんばは三人が寝ている家へ来てからお母さんの声に似せて「ただ今もどったよ」と戸ばたたいた。二人の姉弟は戸を開けようとしたばってん声が少し違うので「この戸の節穴から指ば出してんない」と言うた。やまんばはすぐ出した。弟は「これは違う、ざらざらしとる」と言うと、「麦刈りの手じゃきざらざらしとるとたい」というて手を洗って芋の葉を指に巻きつけてから「洗ろうたよ、さわってんない」と言うと、ほんとうにお母さんの手のようにあるので戸を開けて家に入れたげな。家の中は暗いので何もわからず、やまんばは赤ちゃんの所へ行った。姉弟は安心して寝ついた。いっときすると、何か、ぱきぱきという音が聞こえてきたげな。二人は目を覚まいて抜き足、差し足で様子を見に行ったところが赤ちゃんば食うとるごとあった。

やまんばのおはなし

 二人は恐ろしくなって外に逃げ出したげな。音を立てないようにして、裏の高い柿の木に登った。いっときして、やまんばは気付いてやって来た。下の池に二人の影が映っとるので、たぶを捜しだし池の中の二人の影をすくうとった。その様子があまりにもおかしかったき、二人は、くすくすと笑ったげな。

 上を見上げたやまんばは、「こら、お前たちはどうして登ったとか」と言うので、弟は、「足の裏に油をつげて登った」と言うたげな。油をつけるとなおさらすべすべして登られん。その内にやまんばは考え出して、よきで型を付けて登り始めたげな。もう二人は絶対絶命、どうすることもでけんので、姉弟は神様におすがりするよりしようがない。

 小さい手を合わせて一生懸命に空を見上げてお月様にお祈りした。「お月様、二人をお助け下さい、助けようと思わるるなら金の鎖を、助けめえと思うなら、腐れ綱を与えてください」と一心に祈ったげな。

 すると不思議なことに、天からしゃらしゃらと金の鎖が下りてきた。一番先に金の綱が付いていたので二人は急いで上った。やまんばはどんどん登って来た。今一歩というところで二人は天へ登って行った。やまんばは「助けると思うなら腐れ綱、助けまいと思うなら金の鎖を」と、反対のお祈りをした。お月様は助けようと思って腐れ綱をくださったので、途中まで行った時、ぽつんと切れて蕎麦畑に落ちて死んでしもうたげな。二人の姉弟はお月様に助けられ、やまんばは、蕎麦畑に落ちて、真っ赤な血を流して、死んでしもうた。それで、今も蕎麦の茎の根本は赤いげな。 

おしまい。