昔、志免村に源兵衛という一人の男が住んどったげな。源兵衛は非常に魚つりが好きじゃった。毎日、川に出てはつりを楽しんどった。ある日女房が産気付いたそうじゃが、源兵衛は少しも省みず、今日も川へ出かけて行ってつりを続けておったそうじゃ。どうしたことか、今日は一匹もつれんかった。
そこで、源兵衛は帰り途に鎮守の宮の拝殿で昼寝をしていた。すると一人の白髪の老翁が現われて「我はこの社の神である、ただ今汝の妻のお島が男児を生んだ、汝は日頃、怠け者だから、汝の子は七歳の年の七月十四日夜雷に打たれ焼け死ぬぞ」と告げ高と思うと、その姿は消えた。生れた男の子は源吉といって大変賢い子じゃった。それ以来、源兵衛は好きなつりもやめ仕事に精を出し働き者になっておった。源吉が七歳になると源兵衛と夫婦は石工に頼んで石の櫃を造らせて、その中に彼を入れて雷から守るようにした。
いよいよ七月十四目が来た。その夜、源兵衛夫婦は安心して村祭に出かけたんじゃが、祭がたけなわになったとき、急に大粒の雨が降り出し突然落雷がはじまった。村人たちはくもの子を散らすように、我が家へ帰った。源兵衛夫婦も顔色を変えて家に駆けもどり子どもの安否を確めようと、石櫃のふたを取って見たところ、源吉は石櫃のお陰で無事であった。夫婦は胸をなで下すとともに喜び合ったげな。その後この地方を石櫃と呼ぶようになったということじゃ。
おしまい。